『火馬符蛇(ひまわりふだ)と癸覇帝(はかはてい)の君』
――――――
※ 原作と異なる側面があります。
閲覧に、ご注意ください。
※ 用語や表現について。
関西弁に詳しくない部分もあります。
柴登吾 … 本名「吾登柴」 辛酉
六平千鉱 … 癸未
という、設定です。
――――――
柴■男性側
天帝愛君(てんていあいくん)
栄寿蝶夢(えいじゅちょうむ)
我妻赫燠(わがつまかくおき)※
護主永河(ごしゅえいが)
万馬猛蛇(ばんばもうだ)
―――
「天ノ帝 愛しい君」
「栄え寿 蝶の夢」
「我の妻 赫(かがや)きの燠(おき)」※
「護り主 永い河」
「万の馬 猛なる蛇」
※赫燠…熾天使(セラフィム)
―――
「天帝である、私の愛しい君」
「長き栄えは夢で終わらず」
「妻である貴女は、熾天使」
「護り主で栄華の存在」
「私は獰猛な蛇として闘う」
――――――
一筋の、天ノ雨が振り落ち。
千年の刻を生きた樹に刺さった忌まわしき楔を打ち。
鉄の金属音が、森に鳴り響く。
光が眠り。ひとの呼吸よりも深く重い森の空気と闇が充満するなか――。
ささやかな抵抗の、涙にも似た雨音と終わりの啼きは、闇へと消えていった。
――幾度の、破壊の上に成り立つ。哀れな〝夢〟たち。
――それでも。まだ護るために、闘うのか。
前に視た光景と後に視た光景。時刻が換わり、世界が異なってくることは、よくあることであるが。
それにしたって、異なる世界だ。
彼の家は、煤の香りや焦げた匂い。
〝磁界〟にも影響する鉄の音が、そこに拡がっていることは、珍しくなかったが。
でも。そのときは、血の匂いと、
「――――〝 〟」
彼の、魂の音がした。
《ガコンッ!》
自動販売機で買った缶ジュースを手に取った柴は、溜息をつきながら、背筋を伸ばした。
「さてと、行くか……。チヒロくん、元気にしてるかな」
六平国重の隠れ家が襲撃され。その命と妖刀が奪われたのは、数日前。
襲撃で生き残った国重の息子、六平千鉱は宿命を背負うことになり。そうして彼は、今も、その重荷から解放されることなく、一人で闘っていた。
常日頃から、歳を考えることは止そうと思っていたが。正直、最近は考えさせられ。
どうやって、自分よりも若い彼を支えて、守れるか――。
彼の今後を想い。柴は、再び溜息をついて、その人の元へと向かった。
「……――あっ。しまった。あかんわ」考えながら歩いていたら、うっかりと、妖術を使って移動してしまい。
すぐに、目的の店の前に着いてしまった。
「やっば……」
他の妖術師に感知されてないか、探るが。気づかれている様子はない。良心的な妖術師に仕事や案件・情報を紹介してくれる店であるが、店の見た目からは判らないほどの強固な結界と撹乱の妖術が仕掛けられている。
悪用する者を近寄らせないためのセキュリティとしてで、しかしそれでも、調査力の高い妖術師が探りを行い。悪質な者へ情報を流すことも有り得る。
もし感知されていたら、ここからすぐに離れ。
相手を捕まえ。どういう存在であるか、仲間は居るか。
拷問と変わらない、容赦のない尋問を行い。
ときには、命を奪い。始末しないといけない。
彼の害悪になる存在は――。この世界に要らないから。冷静な判断力も妖術師としては重要なことであるのに。
(……ずっと。声かけ難かったからな……)
毘灼たちの追跡調査や、周辺の警戒と同時に、〝妖刀〟と千鉱を隠さないといけないため。極力、接触を避けていたのだが。
再び接触するとなると、どう接したらいいものか。
調子が、おかしくなってしまったのかもだ。
(気を付けよう……。これじゃ、だめだな……)
ドアを開けて店の中に入ると、
「――《へい。らっしゃいませ》――」
「あ、柴さんだっ!」と、受付カウンターに居た、陽気で愛嬌のある女性が、両手を降りながら挨拶してくれた。
「ヒナオちゃん。元気にしてた?」
「はーい! もう、バリッバリの元気で~す」
「はい、これ差し入れ」
「マジですかぁ。嬉し〜い。ありがとうございますっ!」
柴は、手に持っていた袋の一つをヒナオに手渡すと、
「チヒロくん、どうしてる? ここに居る?」と、彼の所在をヒナオに訊いた。
「居ますよ。事務所の奥に居ますっ」
袋の中身を確認しながら、ヒナオはドアの方を指差した。事務所に繋がってるドアの方を見ると、ドアは閉まっていた。
その先の事務所は、仮眠用としても使ってるようで。
今は、仮眠中なのだろうか。
「チヒロくん。今も、情報収集してたり。依頼とかも受けてんの?」
「はい。ちゃんと依頼もこなしてますね」
「そう」
あれから幾日も経ってないのに、情報収集や、何回か情報のために依頼を受けている、と、薊から伝えられていたが。詳しい内容までは、分からないでいたから。
「大丈夫ですって。難易度の低い依頼ですから」
「そうならいいんやけど」
(……――大丈夫なんか?)
詳しいことをヒナオには言えないままになっているが。柴は、国重と千鉱を隠してきた件に昔から協力してきたからか。千鉱の行動は把握するようにしており。助力が必要な時は気に掛けてきたが、その後の協力者になった薊は、妖術の才能はあるとされているが、どうにも鈍いところもあって。伝え方の不足がないか、と気になってしかたない。
(食事とか。ちゃんと摂ってるんか?)
それは、妖刀の件と関係ない、私生活への気にかけ方であるのだろうが。自分は、保護者のような存在でもあるだろうから。と、柴は気にしないようにしていた。
産まれも、育ちも、生きてることが特別な人だから。
もとから課せられた重荷があるのに、宿命も背負うことになった、彼を――、守りたいから。
(まだ、若いのに……)
自分が彼と同じ年齢の頃は、彼ほどにしっかりとしておらず。英雄ではあるが、あの国重が父親で、その世話で、だいぶ、しっかりした性格に育ち。
国重を亡くしてからは、心を閉ざしたかのような冷静さも加わってしまったようで――。
この店を紹介した手間で、なんだが。
どうにか説得して、
毘灼や、奪われた妖刀を探し出す、という。
復讐にも繋がっている行動を、止められないだろうか。と、想うこともあった。
(今できることは、〝支える〟ということくらいだな……)
千鉱も気に入ってくれるといいな、と思い。
買ってきた物が入っている、ビニール袋の中を確認しながら。柴が、もの思いにふけっていると、
――《カタンッ》
ドアの開く音がして、「誰か来てるんですか」と、彼の声が響いた。
「あ、チヒロくん。おはよう。お目覚め?」
ヒナオがカウンター越しから声を掛けると。
千鉱は、「はい。よく休めました」と返事してから、柴の存在に気づいた。
「柴さん。来てたんですか?」
柴が視線を千鉱の方に向けると、刀身が収まってる鞘を持った彼は、少し眠そうな顔で近寄ってきてくれた。
「騒がしくて、起こした?」
「……――いいえ。ちょうど目が覚めたので」
これはきっと、騒がしくして目覚めさせたんだろうな。柴には分かったが、千鉱の気遣いを受け取り。
「これ、チヒロくんにも」
手に持っていた袋を、千鉱に手渡した。
選んで買った。とはいえ――。
ヒナオのように受け取ってくれるか分からなかったが。彼はあきれることはない、と分かってて買ってきたあたり、自分が情けない。
千鉱は、それを受け取り。
「ありがとうございます」――と、柔らかな表情で、お礼を言った。
彼の表情は、感情を隠してるかのように乏しいものであるが。こうやって稀に見ることのある、喜びを含んだ表情は、柴にとって愛らしいものであった。
(……――可愛いなぁ……)
できてしまった顔の傷で、乏しい表情に貫禄のようなものが備わって、と思っていたが。
久しぶりの表情が見れて、気になる事も薄れてしまう。
――彼の内面は、全てが闇ではない。
すると。
「あ、その……。柴さん」千鉱は、何か言い難そうにしていた。
「なに?」
「実は、ですね。柴さんに、相談したいことが……」
「何かあったん? どうした?」
「ずっと、ヒナオさんの店で宿泊の世話になりっぱなしも迷惑かな。と、想いまして」
柴から貰ったものをカウンターに置いた千鉱は、
手に持っていた刀を握りしめながら、「いつか。妖刀の件で、狙われるかもしれないから」つらそうな声で言い。
その次に言った、内容が、
「柴さん。いい宿泊の物件を知りませんか?」
というもので。
その瞬間。――柴は、思考停止した。
(……――えーと……)
「……――えーと……」
返事のために、再び思考を開始したところ。
いけない思考になってしまいそうで。必死で、意識を反らそうとするが。
いろいろな言葉が口から出てきそうで。
なんとかして抑えた柴は、作り笑いをして、
「……そっかー。チヒロくんが気にするなら、いいところ紹介するよ」
とりあえず、そう言うしかなかった。
「ありがとうございます。なんか……時々……」
「ん?」――まだ、何かあるのだろうか。
聞いてはいけない気もするが、これはあきらかに千鉱が気づいてない、危機でもあるように思う。
「店を尋ねてくる人が……。《自分の所に泊まらないか?》と、誘ってくれるんですけど」
聞いておいてよかった。これは、どういう者か調べて、尋問のち殺処分しないと。
ぶっそうな本音を千鉱に気づかれないようにして、柴は相づちした。
「……そう、なんだぁ」
「誰が、父の命を奪った連中と繋がってるか、分からないから。はっきりと断るためにも、安全な宿泊先があるといいかな。と思い」
「それは、そうだなー……」
このままでは、いけない。
(……――こりゃ、どうにかしないと)
まさか、そんな連中に絡まれてるとは思ってなかったので。しかも、その連中の最終的な目的を、千鉱は理解してないようで――、
これは、いけない。
「柴さんに相談するのが、いいかな。って、想って」
いったい国重は、どこまで社会について教えていたのだろうか。と、疑問になってくる。
どちらかというと、閉鎖空間で育ち。存在を隠すために、世間一般の者と接触することが少なかったからなのだろう。
(この子は、私生活でも俺の守りが必要だ)
「分かったわ!」と、柴は決めた。
「え?」
「とりあえず、俺の隠れ家に来な。そこに泊まりながら、店に通えばいい。できるだけ店まで送り迎えするから」
「いいんですか?」
――その瞬間。柴は、神らしき存在に誓った。
この子を、必ず守る。
(……――チヒロくんを、悪い虫けらどもから守るぞッ! 害虫駆除や!!)
自分も、それら、ある種の悪い虫になってないか。と、柴に突っ込みする者は居なかったが。柴と千鉱の会話を微笑みながら聞いていたヒナオは、なにかしらメモしていたようで、しかし、柴は気にした様子はなく、千鉱は気づかなかった。
◇ ◇ ◇
「――どう? いい所やろ?」
柴と千鉱が移動した先は、かつて、千鉱と国重が住んでいた所と同じく、閑静な郊外で。
国重と住んでいた家とは違った、洒落たデザインの木造の一軒家に通された。
「お気に入りの隠れ家の一つ。ちゃんと結界も張ってあるから」
柴が部屋のカーテンを開けると、薄暗い部屋が明るくなった。すると、移動を考えての事なのだろう。
家具家電は、最小限になっていた。
「……いい所と言っても。長期滞在はできないし、何かあったら。即、移動ね」
「分かりました」
――と、壁時計の方を見た千鉱は、
「もうすぐ、お昼ですね」そわそわと落ち着かない様子になり。
「柴さん。お昼。何か、作りましょうか?」と、提案した。
「……――え。いいの? 頼むわ」
国重が生きていた頃。時々、千鉱の手料理をいただくことはあったが。どこをどうしたら、あの国重から、この手料理を作れる子が生じたのだろうか。というくらい、千鉱の手料理は、柴にとって密かな楽しみであったので。
再び、それが楽しめる、と。
柴が冷蔵庫を開いたところ――、
「……――なんもないわ」
まったく、物が入ってなく。
なんとか入ってたのは、冷蔵室にペットボトル入りの飲料水。冷凍室に袋入りの氷である。
――そういえば、最近。この隠れ家に来てなかった。と、思い出した柴の隣に立ち、
冷蔵庫の様子を覗いてる千鉱に「急いで。料理の材料、買ってくるからね」と、伝えた柴を、
「待ってください」引き止めた千鉱は、
台所に置いてあった、メモとボールペンを手に取って、「買い物の、内容。メモしますね」素早くメモして、柴に手渡した。
「じゃあ、行ってくる。家から出たら、あかんよ」
「わかりました。買い物。お願いしますね」
――しばらくして、
(……これは――……)
買い物を終えた柴が戻ると、それほど長く出掛けてなかったのに。部屋の雰囲気が、出掛ける前とは違ったものになっていた。
(誰かが居るってのは、違うな)
一人で出掛けて、家に戻っても一人だったのに。
今は、違う。
――小物が、使いやすいように移動してあったり。
置いてあったメモを使ったのだろう。
折り紙が、ダイニングテーブルに置いてあった。
(……器用だな。それに、やっぱり可愛い……)
「あ、柴さん。おかえりなさい」
「ただいまぁ」
柴が、買ってきた材料を千鉱に手渡すと、
「さっそく、準備しますね」
料理用のエプロンを身に着けた千鉱は、台所に向い。
「……えっと……、こうかな……」
柴が、料理してる千鉱の姿を見詰めている、と――。
一通りの料理を終えた後。フルーツだろうか、その準備の途中。
何かしらの作業に、千鉱は苦戦していた。
「どうしたん?」
「えーと。リンゴなんですけど。うまく、できてるのかなって……」
柴が確かめて見た林檎は、うさぎの形をしていた。
(ちょ……、可愛いっ)
心を閉ざしてしまったのかも。
そう思うくらいの、千鉱の冷静沈着な様子とは違う側面に、思わず微笑んでしまう。
「大丈夫。うさぎに見えるから」
(こういうところ。ほんと、可愛いな)
――そして、
料理と林檎を盛った皿が、テーブルに並べられた。
「今日は、焼き鮭と……ご飯。味噌汁、おひたし、リンゴです」
「そうか」
(これでは、まるで――)
心の中で、言いかけた「〝 〟のようだ」という言葉を、柴は呑み込み。
向かい合って椅子に座ると、
「食べようか。いただきます」
「いただきます」
二人は、料理を食べはじめた。
◇ ◇ ◇
――――――
千鉱■女性側
灼熱獅君(しゃくねつししきみ)
百矢桃源(ももやとうげん)
千舞木葉(せんまいきば)
万齋神樹(ばんさいしんじゅ)
天龍我夫(てんりゅうわがおっと)
―――
「灼(や)き熱 獅なる君」
「百の矢 桃の源」
「千の舞 木の葉」
「万の齋 神の樹」
「天ノ龍 我が夫」
―――
「灼熱のような情熱の、獅の貴方」
「百の弓矢を、桃源から」 ※百の霊銃
「千年の都からは、千の忍」※千の神兵
「万の氏に、神籍の加護」 ※万の氏子
「白馬天龍の、私の夫」
――――――
「赤ブーブー通信社」「HARU COMIC CITY 34」
「剣戟懲悪 HARU2025」 合わせ
「発行日・2025年3月16日」
「A5サイズ、20ページ」
「印刷・夢工房まつやま」
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