『運命の君と輪舞曲刀(ロンドとう)』
――――――
※ 原作と異なる側面があります。
閲覧に、ご注意ください。
漣伯理 … 甲申
六平千鉱 … 癸未
という、設定です。
――――――
伯理■男性側
紺色の夜空に
月蝕(げっしょく)の輪が踊る
恋詠(こいよみ)の導きの尊(みこと)
銀河の涙は古陵(こりょう)を辿り
杜(もり)の栄華を蘇らせる我が妻よ
長き昏れは、君の一夜の夢
桃の雫のもとで花となり
我が刻む、最愛なる神鳥(かみとり)の証
――――――
「《力こそ、総て。――総ては、力》」
それは、
真実なのだろうか。
「〝想い〟は――」
一族の中でも、能力がないとされ。虐げられて育ってきた自分にとっての、想い出とか、ろくでもないものばかりで。だけども、たしかに。
だいじなものは、存在していた。
――その日は、冷たい雨が降っていた。
激しくはないが今日中に止むことのないだろう細雨は、殴られ蹴られた後の満身創痍の身体を叩き。より一層の、苦痛を与えてくる。
(……――俺が、死なせたんだ)
まだ十歳にも満たない伯理は、ぴくりとも動かなくなった黒猫の遺体を抱えて、泣いていた。
「……なんで。どうして?」
つい先程まで生きて温もりがあった彼は、今は、冷たくなって動かない。
流す大粒の涙は雨と混ざり。どちらが、本物なのか分からない。
その黒猫の、遺体を抱え。うずくまる伯理の前に立ち。
黒猫の命を奪った、漣家の家長の、
その人は、「――それは、〝妖魔〟だ。我々、妖術師に仇を成す存在に育つから始末した」と、高圧的に言い。
伯理から、大事な存在を奪った。
「どうしてっ、そんなこと言えるんだ」
歯向かうことなど、愚かなことだと分かっていながらも。
涙を流しながら。伯理は、その人を睨んだ。
――その人は、表情を変えることなく、言い放った。
「そうなると決まってるからだ」
そうして、
――真っ黒な霧が自分を包んで、〝闇〟が訪れた。
俺の人生は、終わりのない〝闇〟が続くのかと思っていた。
彼と出逢うまで、そう思っていたんだ。
重くて動かない。
深い、〝闇〟の中で、
「……は、く……り――……」
あの人の声がする。
俺を救ってくれた。あの人の声が、
「伯理」と、
名前を呼ばれ。
目蓋を開くと――、ほぼ同じタイミングで、目の前に居る彼に伯理は抱きついた。
「うわっ」と、千鉱は驚いた様子であったが、抱きついてきた伯理を突き放すことなく。
伯理がしたいままにしてくれて。
思わず。千鉱の頬に、伯理は口づけしそうになったが、
「あ、ごめん。ねぼけてた」と言って、慌てて身体を離して、千鉱の顔色を伺った。
「……大丈夫か? なんか、うなされてたけど」
すると千鉱は、嫌がっているどころか、心配そうな表情をしていた。
「大丈夫だよ」
夢の内容が悪夢だったからだろうか。じっとりと冷汗もかいているが、千鉱を心配させないように、伯理は笑って応えた。
昔から。時折、悪夢を見ることはあり。自分の精神面が原因だろう、と思っていたが。
どうにも、祖先から継いだ能力は脳への負担もあるようで。最近は、脳を落ち着かせるためのものだろうと想うことにしていた。
「夕ご飯の用意できてるけど。もう少し寝てるか?」
少しだけ微笑んだ千鉱は、伯理から離れると。
背を向けて、部屋のドアを開いた。
「え? 夕ご飯? 食べるからっ!」
伯理が返事すると、
「じゃあ……。夕ご飯の準備してくる」と、言い。
千鉱は、先に台所へと向かった。
◇ ◇ ◇
「――なぁ、伯理」
「なに?」
「さっきは、どういう夢を見てたんだ。話したくないなら、言わなくていいけど……」
食事のあと。二人暮らしになってからの習慣の一つである、片付けを一緒に行い。
食器用の布巾で皿を拭きながら訊いてくる千鉱が、なんだか、愛らしくて。
思わず、伯理は笑んでしまう。
「昔あったことの夢だよ。悪夢かな」
ソファーに座った伯理は、少し考え込んでから。続けて、言った。
「……――チヒロ。昔のこと、話していい?」
皿を仕舞い終わった千鉱は「聞くだけ。聞こうかな」と、伯理の隣に座った。
彼の、赤い瞳が。
じっと、伯理を見つめている。
「猫を育ててたんだ。真っ黒な毛並みの猫。瞳は、真っ赤で……」
「猫? カマキリじゃなく?」
「カマキリは、そのあと。だいぶ後ね」
手に入れたカマキリの卵から育てて、人間でいうところの成人状態まで生き残った一匹に名前を付けていたのだが。逃げられ、それはそれでショックだったが。
あれは、
「十歳にもならない頃に――」
伯理は、ゆっくりと語った。
――その猫は、
黒い毛並みで、赤い瞳をしていた。
十歳にもならない頃。
殴られ蹴られた後のこと。隠れて泣いていたときに、その猫は現れた。
野良猫とは思えないほど綺麗な毛並みと、紅玉(ルビー)の瞳で、じっと、伯理を見つめてきて。
しばらく――、見つめ合ってから。
その猫は、伯理が信用できる人間と想ってくれたのか。
近づいてくると、身体を擦りつけながら、愛らしく鳴いた。
伯理に懐いた黒猫は、人を魅了するところがありながら、穏やかな性格で――、
普通の猫ではなかった。
いくら能力がほとんどないとはいえ。玄力を感じるくらいは、伯理にもできて。
その猫から、玄力を感じていたのだ。
だけど、この猫が害になるなんてない。
きっと「黒猫は不吉だから」というので、排除されそうになったところ、逃げてきたのだろう。そのさまが、漣家としては無能で役立たずで、居ない存在にできないかと思われている、自分と重なり。
この存在を、守らないといけないと思い。漣家の人々に隠しながら、育んできた。
その黒猫には、名前があった。
「〝 〟」
「……――だけど。やっぱり、見つかって。排除されてしまって」
いつの間にか。膝に置いた伯理の右の手のひらに、千鉱の左の手のひらが、重ねられていた。
「そいつは、お前の大事な存在だったんだな」
千鉱の声色は単調なものであるが。
こうやって、手のひらを重ねるのは、千鉱なりにできる感情表現の一つで。
たぶんこれは、〝情愛〟というものだろう。
「――チヒロ」
伯理は、千鉱の名前を呼ぶと。
ぎゅっと、彼の手のひらを握った。
「なんだ?」
「今度は、必ず守るから……」
必ず。君を守る騎士(ナイト)になるから。
「なに言ってるんだよ」
よくわからない。と、照れている彼を見つめながら。
伯理は、千鉱の手のひらの甲に、誓いの口づけをした。
愛しい人の瞳が、わずかに揺れる。
――《俺の人生には、君が必要だから》――
◇ ◇ ◇
――――――
千鉱■女性側
緋色の夜明け
君と見た夜半の幻月(げんげつ)
熱情の想いを注ぐ運命の貴方
軌跡を巡る儚げな月ノ船
幻国の都へと導く我が夫よ
長き戯れは、君との慈しみ
融(と)けた蜜蝋の封印
その雄姿で結ぶ、覺(か)くの淡い声
――――――
「赤ブーブー通信社」「OSAKA FES Mar.2025」 合わせ
「発行日・2025年3月30日」
「文庫(A6)サイズ、20ページ」
「印刷・夢工房まつやま」
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